小津作品がとても気に入っている。
日本の映画の名作の一つに数えられる傑作。
雰囲気はサザエさんの実写版のような昭和の日本の普通の風景、人生が描かれている。
「東京物語」は
戦後8年の日本の縮図のような作品。高齢化と核家族化の問題を先取りしている。
尾道の老夫婦が息たちの顔をみに東京へと向かう。
(東京と言っても老夫婦が身を寄せた町医者の息子の家は下町で、東の端っこの北千住、牛田駅のあたり)
千住大橋と荒川の土手、今は無き真っ黒の煙を吐き出すおばけ煙突が見えた。
ふた世代時代は違うけれど、このあたりに私の母の実家があり、私はここで生まれた。
たまたまそんなこともあったので一気に映画にひきつけられてしまった。
(映画のあらすじ)
上京して自立した子どもたちはみな元気にしていて医者だったり美容院経営など忙しく日々を送りながらもよく働き、立派に自立して家族を持っていた。汽車で長い道のりをやってきた老夫婦をそれぞれ迎え入れる息子たち。邪魔だ、と口には出さないまでも、どこか形式的で温かみに欠けている息子たちの雰囲気を感じさせる。もちろん老夫婦もそれを感じるものの、「これでもずいぶん仕合せなほうさね。」「みんなの顔がみれてよかった。」と満足する。いたって謙虚でつつましい姿が切なかった。
そんな中、戦死した息子の妻がただ一人、楽ではないやもめの生活をおしてこの老夫婦を精一杯もてなした。
(映画の感想)
特に、おばあちゃんがのりこさんの家に泊めてもらった日ののりこさんとの夜の2人の会話と、お葬式の帰り際のおじいさんとのりこさんの会話のあたりがすごく良かった。
映画の後半からヒロインはこののりこさんという戦争で夫を亡くした女性にシフトした。原節子さんが演じるのりこさんはとても美しく、立ち居振る舞いが美しく魅せられる。
全体を通して綺麗な言葉遣い、老夫婦のゆったりしたしゃべりも見所だと思う。
(変わりはじめた家族形態)
この当時は核家族という形ができたころで、親の危篤に立ち会うことすらできなくなってしまった(当時の)現代のせちがらさを描いているのではないかと思う。
当時本家で何世代もが同居するスタイルからの核家族の誕生は「家族の崩壊」と写ったかもしれない。現代はどうかというと、この核家族という形はもはや当たり前であるのは言わずもがな、私たちの生きる現代ではこの核家族が崩壊の危機にある状態。老人をすみに追いやって好き勝手やっている世代の子どもが私の世代だ。杉本春子が演じる自分勝手な娘だって、一応は兄弟と相談してお金を出して熱海につれていってやったりするのだから、「なんてまともで親切な娘だ」と思えるくらいだ。つまりそれくらい私たちの親へのいたわりや尊敬の念は失われてしまったということだろう。そういうことを自覚し、自分の生き方までも考えさせられる映画だ。
戦後の日本はこんな風にお年寄りを地方に残し、都会に出て必死で稼いで、稼いで 親の死に目にも合えず働いて、という家族が増えた。そして日本の経済はものすごく成長した。そして食べるのにほとんど誰も苦労せず、物質にも恵まれた生活を送れるようになった。戦争で食べるものがなかったのだから、とりあえず豊かになりたかった。そして物は豊かになった。
では心はどうだろう。豊かに暮らせるようになった喜びでここまで気がつかないフリをしてなんとかきてしまったが、心に余裕の無い家族が増え、家庭内には親と子のひずみが生じたのではないか。今の私たちの世代の心はその親の世代に、その親はそのまた親の世代に影響を大きく受けている。そういう意味で私たちの世代もまだ戦後をひきずっていると言える。まだ戦後を生きている。現在深刻な犯罪が多いのは、日本社会の戦後の歩みの背景にある「家庭」の枠組みや機能の変化が大きく関係している。日本は戦争から心身ともに立ち直ったわけではない。身体的な空腹はおなかが「ぐう」となればすぐにわかるが、心が空腹はすぐにきがつくわけではない。
常軌を逸した不道徳な犯罪が後をたたないのはまさに日本人の「心」が崩壊しつつあるサインだ。法律を変えたって変わらない。人の中の「心」が変わらなければ何も変わらない。日本が戦後歩んだ道を全否定するのでないにしろ、歴史をもういちど見つめなおさないと。自分の家族との関係やこれまでの人生を省みて痛いところをほじくりだす作業は確かにつらい。でも、子どもや親の育て方や教師の質、テレビゲームを悪者にしていつまでも本質をみようとしない今の雰囲気がこれからも続くのならば、日本は自滅の道を転がる一方だと思う。
ネガティブな意見になってしまったけれど、こうやって吐き出すことで頭と心を整理して、今の状況と私たちの持つべき意識を考えていければいいと思う。とにかく何でも考えることが大事だと思う。今度は家庭教育についても、考えていることを書いていきたいと思う。
東京物語(1953) - goo 映画
0 件のコメント:
コメントを投稿