2008年9月19日金曜日

書評『教育改革国民会議で何が論じられたか』 


2000年の3月から、小渕首相の提案によって、識者26名を集めて、月に2回、首相の私的諮問機関という形で会議が開かれてきた。小渕氏がなくなったあとは主宰者は森首相に引き継がれた。ここでは、教育基本法にもとづく戦後教育のありかた、現在の教育の荒廃、さらに将来の人材育成の方法をめぐって、激論が闘わされた。それは日本の文化、国家のありかたをめぐる論争でもあったのである。現職の教師としてただ一人委員となった著者が、議論の批評もふくめて、白熱した会議の模様を伝えたのがこの本である。
このような会議の内側を手に取るように感じることが出来る機会はなかなかなく、とても貴重な一冊だと思う。8年も前の会議なのですでに古いものになってはいるが、ここで決められたことのなかには既に実現したもの、これから実現するもの、まだ実現まで至っていないものなどあるので、現在の教育の流れを知るためにも役立つだろう。

委員の中に現場の教師はこの著書ただ一人。著者はだからこそ声を上げねば、と奮闘し、この会議に現在の教育現場の現状を伝え、戦後の歩みをふりかえるという根本から考えることが必要、という認識を他の「有識者」にしめしたことの意味は大きい。(この振り返りは中間報告文のはじめの「いまなぜ教育改革が必要か」にこめられているとおもうので次回その原文とともに取り上げたい)

この会議について残念なことは大きく三つ。

一つ目は現場を知らない委員がほとんどだったこと

教育をいくら語っても、現実に即した実りある議論はまずできない。私が考えるに、教育会議をするのなら、教育現場を知っているものが半数はいなくてはいけないのではないかと思う。会議に出席したものの発言が今後の日本の教育の方向性を決めるのならば、だれが出席するのかは大変重要だと思うのだが。

二つめは未就学児の教育問題について意見がほとんど交わされていないこと。

人生の基礎をつくる時期である保育園、幼稚園の問題は全く取り上げられていないのが口惜しい。現在の学級崩壊が多いのは中学校ではあるが、小学校では「一 年生問題」といわれる現象が深刻になっているが、この会議で現状の姿として発言があったのは主に著者の働く中学校の現状で、小学校の現状ではなく、幼少の 接続に関する問題は現在急務になっているのにもかかわらず、2000年の時点ではまだ問題視すらされていないようだ。本のなかにも幼稚園、保育園に関する 話題はほんの一部しかなかった。

三つめは有識者の教育の現状認識の甘さ
(エリート教育についてを柱と考える有識者がかなりいたこと)


私は著者と同じく、「日本人にはリーダーがいない」と思っているので、エリートともいえる人材の育成に力を入れることには反対ではない。けれども、日本全体の教育の方向について考える「教育改革国民会議」のなかで「エリートをつくるためにどうするか」という議論ばかりなされては現実とかけはなれて行くばかりだろう。

こういう議論をこの会議で進めようとするひとは大抵教育の現場を本当には知らない。「できる子」が1割としたら、9割は「普通の子」なわけで、「普通の子ども」による少年犯罪が増加の一途をたどり始めたこの時期に、1割のほうに焦点を当てるのは楽観的過ぎると思う。1割のエリートより、9割の「普通の子ども」をなんとかまっとうな人間に育てなければならない。それが今までのシステムではうまく機能しなくなったから、教育基本法と現在の子どもの現状にずれがあるのではないか、ということが言われているのである。教育基本法と現状とのズレ、ゆがみの根本を戦後の日本の歩みを振り返ることで見つけだし、今すべきこと、進むべき方向性はなにかを有識者の知恵を絞って考えるのがこの会議の目的になってしかるべきだ。

この会議では全体会から途中三つの分科会に分かれて議論され、「エリート教育について語る分科会」といえる会が一つ立てられた。「競争力のある日本をつくる分科会―創造性の高い人材育成―」という名の分科会だ。はっきりいって、三分の一もそれに費やすのは割合が多すぎる。これは他の議論とはまったく別枠で考えたほうがよい事項だと思う。教育格差を自分たちでつくってどうする。

以下、作家の曾野委員が自身の教育の現状の認識の甘さをこの会議に出席することで感じた発言。

この会議に出るようになってから、私は多くの教育に実際に携わっておられる方々が、すでに日本の教育は手を施すすべもない危篤状態に陥っている、と思っていることを知りました。私は、重病くらいに思っていたのですが、「そろそろ親戚の方々をお呼びになった方がいいと思います。」という段階だそうです。しかし、私は希望を失ってはいません。日本の子どもたちの悲劇は、能力があるのに、それが使われていないことです。それは、教育を司る官僚、教師、親に、勇気がないために危険を冒すことを恐れ、失敗したときの責任ばかり考えて何もしないからです。・・・・・・
   
著者プロフィール(ウィキペディアより)

河上 亮一(かわかみ りょういち、1943年 - )は、元埼玉県公立中学校教諭。埼玉教育塾・通称プロ教師の会主宰。

東京都生まれ。私立開成中学校・高等学校を卒業し、現役で東京大学入学。1966年、同大経済学部卒業。卒業と同時に埼玉県公立中学校社会科の教師となる。2000年に教育改革国民会議委員もつとめた。1966年~川越市立(高階、霞ヶ関、川越第一、鯨井、名細、城南、初雁)中学校教諭筑波大学武蔵野大学非常勤講師。2004年に川越市立初雁中学校教諭を最後に定年退職。2006年4月から日本教育大学院大学(東京都千代田区)教授(教育社会学、教科教育(社会)・現職)。1980年代の後半頃から著作の出版活動を始め、ワイドショーなどのマスメディアに多数出演。著書多数。

  著書

  • 『プロ教師の生き方学校バッシングに負けない極意と指針』(洋泉社、1996年)
  • 『プロ教師の覚悟瀕死の学校を再生するために』(洋泉社、1996年)
  • 『プロ教師の道豊かな「管理教育」をつくるために』(洋泉社、1996年)
  • 『プロ教師の仕事術学校という戦場を生き抜く技術と知恵』(洋泉社、1997年)
  • 『学校崩壊』(草思社、1999年)
  • 『普通の子どもたちの崩壊―現役公立中学教師一年間の記録』(文芸春秋、1999年)
  • 『教育改革国民会議で何が論じられたか』(草思社、2000年)
  • 『学校崩壊―現場からの報告』(草思社、2001年)
  • 『教育大混乱』(洋泉社新書、プロ教師の会メンバーとの共著 2007年)

私の意見と一致するamazonの読者レビューからの抜き出し。
「→」以降が私の言葉での感想。

・教育改革国民会議での話し合いの内容はなかなか詳しくは国民に伝わってこないため,どのような話し合いが行われたのかを知るための貴重な一冊。

→この会議の様子は新聞に取り上げられていて、私も当時記事を読んでいたが、どうもよく見えてこなかった。この本を読んで、いかに新聞の記載内容が信頼できないかが分かった。「本当のところがどうもよく見えてこない」書き方にあえてしていたという事実が書かれていたからだ。15章の教育基本法改正の議論とマスコミの専横では、そのことが書かれている。この会議は教育基本法改正派の首相の諮問機関として開かれていたため、当時、マスコミのほとんどが「森総理が教育基本法の改正論者で、その考えを国民会議に押し付けて、その方向に議論を持っていこうとしているのではないか」という見方だった。改正案に対してはほとんどの委員が賛成であったにもかかわらず、「首相に配慮?」という見出しで「ほんとうは改正反対者がほとんどだった」という嘘とも言える内容が新聞にのせられたことすらあったと書いてある。
 

・それぞれの道で日本を代表する委員が集まっているのだから、高いレベルの提言が出てくると思っていたが、報道される内容からはよく理解できないことが多かった。

・委員の顔ぶれを改めて見てみると、現場の教師はこの本の著者である河上氏しかいなかったことがわかる。この事だけからも河上氏の役割の重要性が分かるだろう。

・この本からは国民会議で議論されて記録されていること以外にも河上氏の視点でみた会議の雰囲気も臨場感を持って伝わってくる。

・最近、話題になっている奉仕活動の義務化等が国民改革会議でどのように議論されたのかが、よくわかる本である。

・現場の教員である著者と他の委員との現状の認識の差がはっきり理解できる。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

初めて投稿させて頂きます。おにぎりです。当方、南国オーストラリアで第二言語習得のエリアでリサーチをしている現役高校教師です。

MEGさんのブログ今日初めて拝見いたしました。とても、興味深く読まさせて頂きました。もし宜しければ、私のブログにリンクさせて頂いても宜しいでしょうか。

参照までに私のくだらないブログのアドレスを付けますので、読んで頂いて、それから判断してみてください。宜しく御願い致します。http://postgradstudentinaustralia.blogspot.com/

meg さんのコメント...

おにぎりさま、はじめまして。ブログ、読ませていただきました。現役教師、しかも大学院生でもいらっしゃるのですね。第2言語習得の領域はフランス語に悪戦苦闘中の私には大変興味深い分野です。お忙しいところ、私のブログをご覧くださり本当にありがとうございました。拙いブログですが、リンクを貼っていただければうれしいです。今後もどうぞよろしくお願いします。

匿名 さんのコメント...

今晩は、おにぎりです。Megさん、リンクの承諾有難う御座いました。早速リンクさせて頂きましたので御報告致します。
フランス語や学校での勉強の方も頑張ってください。これからも貴ブログを拝見させて頂きますので、時々コメントもさせて頂きます。それでは、また。

meg さんのコメント...

こんばんは。ご報告ありがとうございます。リンクを貼っていただきとてもうれしいです。励みになりますのでお気軽にまたコメントください。私もおにぎりさんのブログを拝見させていただきます。ではまた。

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